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今回は来週からボクネンズアート東京で始まる展覧会『大自然からの贈り物』。
展示予定作品より10点セレクトしてスタッフのさおりとさきがお届けします。
高感度なセンサーを持つボクネンさん。少し外を散歩するだけで、美の激流が怒涛のごとく流れてくると話しています。大自然を神そのものと捕らえて描かれる作品の数々。どうぞお楽しみください。
・ボクネンさんの山登り
・美の激流!?
・戌のあけもどろ
・展覧会情報
『大自然からの贈物展』 / ボクネンズアート東京
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| 大自然からの贈物 |
「戌のあけもどろ」
紅のあけもどろは、水平線が浮き上がった様に見遥かせると本番になります。少々遠慮がちに横伸びにするのですが、油断してる内に咲き花は変化しますので、離さずに楽しまねばなりません。
白み始めの朝早くに行動する東海原の黒鷺が、目の前をゆったりと飛び過ぎると、いよいよ黄金のあけもどろが展開します。紅よりのバトンがいつ渡されたのか判然とせぬうちですから、東の方空どころか、みぎ右の中空も輝かしいばかりです。
天地をどよもすように、あるいは、花が咲き渡るように夜が明けるのだと、昔の人はうたったのですが、ほんとにそんな風だと思えます。闇から変転する光の世界は、まるで生気に満ちて、空間までが鳴り響き、楽する音が聞こえるようですよ。
さて、一面に光の帯が射してきますと、当たりの良い場所に各々として生きものが集まってきます。バッタは裏の葉から表にクルッと体を回しますし、セッカはススキの穂先をつかみ、羽づくろいを始めます。青色の鮮やかな尾を持つ南蜥蜴は、赤い土塊の上に陣取り、空に向けて顔を止めました。朝の運動でしょう。勢い良く跳ねるのは茅鼠です。
鳥の声も交じってあたりが俄かにざわめくと、やがて後の薮から草を分ける乱暴な音がします。犬の親子です。お母さんが落ち着いた足どりであるのに、六匹のいたずらものは組みつほぐれつひっかかりながら後についてきます。折りからの露玉をいっぱいつぶしたので、体はすっかり濡れてしまいました。これも朝の陽を体でとり込みにきたのです。
見晴らしのいい処までくると母さん犬は、二度程その体を回すと座り込み、悠然とします。しばらく海の向こうをみつめていますが、やがて静かに毛づくろいを始めました。並ぶようにして「いたずらものたち」も、手足の露を小さな舌でこし取ります。
早朝の清々しい光線はすっかり輝きを増し、おしみのない慈しみを満たしています。
「戌のあけもどろ」です。
たっぷりとした幸福感です。
夜の内に冷えた体に、十分と温かさが戻り、乾いた体毛を震わせ海からの風が吹きます。
子犬達は母さん犬の尻尾を相手に、かわる変わる戯れ始めました。放題を尽くしますがいまだ小さい子供には我慢をします。いまは必要ないたずらなのです。
犬は安産の功徳があるのだそうです。多産でしかも間を置かず子を宿すのが、子を必要とする人に勇気を分けるのでしょう。
ところが、この頃の犬たちはそうでもありません。しかもここの犬たちは野良のものです。この子たちのいくつが大人になりきれるのでしょうか。
十分じゃないにしても、生きのびる為の食がみつかるのでしょうか。肉に潜む毒薬をかぎ分けられるか。あるいは車が危険なイキモノであることを学習することができるのでしょうか。いや、首尾よくそれらをきり抜けたとしても、蚊が媒介する寄生虫が心臓に満ちて、数年の命という事にならないでしょうか。
ぼくが思いつく災厄を考えている内、太陽もだいぶ昇ったようです。鳥達は散々に餌を求めて飛んでいきましたし、蜥蜴は土塊の上をとっくに去り、茅鼠は深く草叢にもぐりました。
さあ、新しい一日の開始です。
犬の母さんが背伸びをすると、子供も真似ます。鼻を高くして風を嗅ぐと、それも真似ます。六匹もいると各々のやり方があって一様ではありません。しかしいずれの子も母さんのやる事を、自分の方法で観ています。生き残る為に学ぶのです。
意を決したように母さん犬が歩き出しました。太陽に背を向けると、前方に長い影が出来ます。その影に小さな影がまとわりつくようにして、賑やかなそれは藪の中へ消えました。
あれだけの乳飲み児をかかえて、母さん犬が死ぬわけにはいきません。
太陽は高くなる程に熱さを増し、ひどく照り付ける予感をもっています。
「戌のあけもどろ」は、もうとっくに終わっていました。



